分子科学研究所の概要 45
2-10 国際交流と国際共同研究
2-10-1 国際交流
分子科学研究所には1ヶ月以上滞在して共同研究を実施する長期滞在者と研究会や見学・視察等で来所される短期 訪問者を合わせて,毎年 200 名前後の外国人研究者が訪れている。前者には外国人客員教官(教授2名,助教授2名), 文部省招へい外国人研究員(毎年3∼5名,3か月以上滞在),日本学術振興会招へい外国人研究者,日韓協力による 来訪研究者(毎年3名,1人4か月滞在)及び特別協力研究員(私費や委任経理金等により共同研究実施のために来 訪する研究者)等がある。短期訪問者とは岡崎コンファレンスを始めとして次項で述べる様な色々な国際共同研究事 業に基づく研究会への参加者及び短時日の見学来訪者である。
以下に今迄の来訪者の過去10年間のデータを種類別及び国別に示す。表中「文部省外国人招へい研究者」とは文部 省関係の招へい外国人,すなわち(1)外国人客員教官,(2)文部省招へい外国人研究者及び(3)日韓協力による韓国人研究 者の総計である(年度を越えて滞在している人は二重に数えられている)。
表1 外国人研究者数の推移(過去 10 年間) 者 在 滞 期
長 短期滞在者
度 年
人 国 外 省 部 文
者 究 研 い へ 招
外 会 興 振 術 学 本 日
者 究 研 い へ 招 人 国
員 究 研 力 協 別
特 研究会 訪問者 合計
8
8 13 9 23 67 93 205 9
8 17 16 18 73 50 174 0
9 16 13 22 52 50 153 1
9 17 21 49 159 82 328 2
9 17 17 56 112 47 249 3
9 16 14 46 78 29 183 4
9 15 12 47 86 17 177 5
9 16 19 23 83 30 171 6
9 18 22 20 55 65 180 7
9 17 17 20 99 19 172 計
合 162 160 324 864 482 1,992
表2 外国人研究者数の国別内訳の推移(過去 10 年間) 度
年 アメリカ イギリス ドイツ フランス 韓国 中国 ロシア その他 合計 8
8 46 21 16 21 20 31 4 46 205 9
8 38 36 12 15 9 13 4 47 174 0
9 41 14 8 10 8 13 8 51 153 1
9 108 24 23 7 34 29 36 67 328 2
9 48 28 6 6 49 45 20 47 249 3
9 39 16 16 3 26 17 24 42 183 4
9 40 16 15 5 24 20 23 34 177 5
9 34 14 17 9 17 8 9 63 171 6
9 37 10 13 13 25 14 11 57 180 7
9 41 16 7 7 12 21 15 53 172 計
合 472 195 133 96 224 211 154 507 1,992
46 分子科学研究所の概要
2-10-2 国際共同研究
1998 年現在実施している国際共同研究事業を以下に説明する。 (1) 日米科学技術協力事業
分子科学研究所は、1979 年締結「エネルギー及びこれに関連する分野における研究開発のための協力に関する日本 国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」及び翌年締結(1988 年再締結)の「科学技術における研究開発のための 協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に基づく研究分野のうち、エネルギー分野「光合成に よる太陽エネルギー転換」に係る事業計画の企画立案及び実施に関する連絡調整の担当機関となり、事業の推進に当 たっている。1995 年 2 月に 1979 年に締結された協定の 5 年間単純延長が合意され、現在Ⅲ期目に入っている。なお、 広く国内関係研究者の意見を反映させるために、所長の下に所外から委員 11 人と所内委員 2 人から成る研究計画委員 会を設置し、研究者の長期派遣、日米情報交換セミナー、グループ共同研究などの企画や応募された企画の審議を行っ ている。また日米の研究推進機関(文部省と全米科学財団)の間で研究実施、企画、評価のために、日米間でステア リングコミッティーを設置している。
これまでに実施した事業の概要は次のとおりである。
ステアリングコミッティー 1982.1 ∼ 1998.3 8 回開催 研究計画委員会及び幹事会 1979.6 ∼ 1998.3 毎年1回 研究者派遣 1979 ∼ 1997 年度 中・長期派遣 116 名 1998 年度 中・長期派遣 3 名
現在進行中のグループ共同研究 4 組
日米情報交換セミナー 1981 ∼ 97 年度 全部で 24 回開催 1998 年度には以下の 3 件を開催した。
・プロトン移動にカップルした電子移動 ハワイ
・炭酸固定反応と光合成器官に対する環境の影響 カリフォルニア
・結晶状態での光合成 カリフォルニア
98 年 3 月に開催されたステアリングコミッティーにおいて、1999 年度の事業をもって、本事業をとりあえず終了す ることが日米間で合意を見た。99 年度には "Photoconversion and Photosynthesis: Past, Present, and Perspective" という情 報交換セミナーを岡崎コンファレンスセンターで開催し、今後の展望までを含めた総括的な意見交換の場とすること が決定されている。
(2) 日韓共同研究
分子科学研究所と韓国高等科学技術院(K A IS T )の協力で、1984 年以来、日韓合同シンポジウムと韓国研究者の分 子科学研究所への受け入れの二事業が行われている。合同シンポジウムは 1984 年5月に分子科学研究所において第1 回シンポジウムを行い以後2年毎に日韓交互で開催しており、1997 年1月分子研で開いた第 7 回シンポジウムに引き 続き、第 8 回シンポジウム「Molecular S pectroscopy and T heoretical C hemistry」を 1999 年 1 月 8,9 の 2 日間、韓国のテ ジョン(T aejon)市において開催した。日本側からは派遣団長の伊藤光男分子研所長をはじめ全国の大学、研究機関か ら 13 名が参加した。
なお、1991 年度から毎年 3 名の韓国側研究者を 4 か月ずつ招聘しており、1998 年度も 3 名の招聘を実施した。
分子科学研究所の概要 47 (4) 日本・チェコ共同研究
1995 年度から新たに開始されたプログラムで,チェコ科学アカデミー物理化学研究所(ヘイロフスキー研究所),同 高分子科学研究所,プラハ工科大学,カレル大学などとの分子科学共同研究を促進させる事を目的としている。文部 省科研費、海外学術研究の支援により、初年度は所長はじめ6人の研究者がプラハを訪問し,共同研究の推進等につ いて討論を行った。また,チェコの若手研究者1人が約3か月間分子研において共同研究を行った。1996 年度は,2 人 をプラハに派遣し,1 月には 4 人の研究者が来所して共同研究を実施した。1997年度からは学振の2国間共同研究と して、日本側は北川禎三が代表になり申請、受理された。1997年度は2人を派遣し、6人を受け入れた。1998年度は 4人を派遣し、6人を受け入れた。1999年6月にプラハで3日間のジョイントセミナーを実施する事になっている。
(5) ロチェスター大学との共同研究
ロチェスター大学に併設されている全米科学財団の科学技術センター「光誘起電子移動研究センター」と分子科学 研究所が,研究テーマ(1)光誘起分子内及び分子間電荷移動,(2)光誘起水素原子移動,(3)分子性固体におけるプロトン移 動,(4)光増感作用,(5)電荷移動理論及びこれらに関連のある研究を掲げて共同研究を行う計画を立て,1993 年 12 月に 事前共同研究が分子科学研究所においてロチェスター大学側から 11 名が参加して開催された。この結果をもとに 1994 年度は 2 名の研究者を派遣した。1995 年 12 月からは日本学術振興会の重点研究国際協力事業として正式にスタートし た。1996 年 2 月に分子研側から7名が参加して研究会をロチェスターにおいて開催し,これまでの双方の研究成果の 発表・討議を行うと共に、具体的な研究課題の実施に関する検討も行った。その結果,「超高速分光による凝縮相電荷 移動ダイナミクス」「生体関連電荷移動反応」「新物質の開発」「凝縮系中分子の動力学の理論的研究」の主要4テーマ を中心に共同研究を開始した。平成 9 年度以降は,上記課題に関連する広範な研究者が本プロジェクトに参加し,平 成 10 年 11 月の事業終了までに延べ 89 名がロチェスター大学において共同研究の実施・成果の討議等を行った。 (3) 日中共同研究
日中共同研究は、1973年以来相互の研究交流を経て、1977年の分子科学研究所と中国科学院化学研究所の間での研 究者交流で具体的に始まった。両研究所間の協議に基づき、共同研究分野として、(1)有機固体化学、(2)化学反 応動力学、(3)レーザー化学、(4)量子化学、をとりあげ、合同シンポジウムと研究者交流を実施している。特に 有機固体化学では1983年に第1回の合同シンポジウム(北京)以来3年ごとに合同シンポジウムを開催してきた。1995 年10月の第5回日中シンポジウム(杭州)では日本から20名が参加し、ひきつづいて1998年10月22日−25日に第6 回の合同シンポジウムを岡崎コンファレンスセンターで開催した。中国からは若手10名を含む34名が、日本からは80 名が参加し、盛況の内に終了した。第7回は2001年広州において開催される予定である。
48 分子科学研究所の概要
2-10-3 多国間国際共同研究の推進
分子科学研究所は設立当初から分子科学分野における日本の代表研究機関として多くの国際共同研究を推進してき た。今迄に日英,日米「光合成による太陽エネルギー転換」,日韓,日中,日・イスラエル,日・チェコ,日米(ロチェ スター大学),日・インド(学術振興会)等の共同研究を実施してきている。日本全体の分子科学分野の世話役として 研究者の交流や合同討論会の開催等で多くの成果を挙げる事が出来たのではないかと思う。上述の中のいくつかは前 節で述べられている通り,現在も活発に推進されている。しかし,これらの共同研究は全て二国間共同研究であり,分 子科学研究所及び研究そのものの一層の国際化に十分対処出来なくなってきている。分子研では既に,平成6年実施 の将来計画検討において国籍を限らない多国間にまたがる国際共同研究を推進できる様にすべきであるという提言を 行い概算要求を行っている(分子研リポート’ 94∼’ 97参照)。
残念ながらこの計画は未だ認められるに至っていない。ここで改めて,その重要性を説いておきたい。先ず第一点 は,言うまでもない事であるが,国際共同研究のグローバル化が一層進んでいるという事である。国籍を越えた科学 者の流れは今や日常茶飯事であり,しかも研究グループの多国籍化が常識とさえなってきている。外国国籍の大学院 学生や博士研究員が多くいるのは最早アメリカだけではない。こういう状況の下では国籍を限った二国間共同研究が 有効に働かないのは明らかである。第二点は,共同研究において“ 日本の分子科学研究所” かつ“ 世界の拠点” とし てその国際性及び主導性を自ら発揮出来る体制を構築していかなくてはならないという事である。分子研には既に, 色々な形で外国人研究員が常時多数滞在して研究に従事しているが,実際にはそれに倍した所内及び国外からの共同 及び協力研究実施の希望が殺到している。また,分子研には極端紫外光実験施設や電算計算機センター等世界に類の ない分子科学専用の大型研究施設があり,これらを有効に活用した国際共同研究をもっと支援していかなくてはなら ない。最後に,研究というものの本質に根差す計画性・偶然性・セレンディピティ(発見・発案能力)を支え,具体 的課題毎に2∼3年の計画性を持ちうると同時に柔軟に臨機応変に対応出来る体制が必要である。
以上の考えの基に我々は「光反応の分子科学」,「物性分子科学」,「理論分子科学」の分子科学3大分野に亘る国際 研究推進計画を概算要求し推進しようとしている。これらの各分野毎に所内で課題募集を行い,分野当り2∼3件を 所長の下で採択しそれぞれ2∼3年計画で実施出来る安定した体制を構築していきたいと考えている。